社会構想/実践としての発明と模倣――社会学史からみたガブリエル・タルド研究より

掲載日: 2016年01月01日English

enlearge image (to back to press x)パリ政治学院歴史センターの正面入り口。ここにタルドの草稿などが収められたアーカイブがある。

私のこれまでの研究活動の中心にあるのは、19世紀末に活躍したガブリエル・タルド(Gabriel Tarde 1843-1904)の研究、とくに彼の経済心理学および社会学理論の研究です。

タルドは、社会学が雑誌や学会や講座をもちはじめ学問領域として認知されつつあった時期に活躍した社会学者です。彼がもっともよく知られているのは「社会は模倣である」という社会模倣説においてでしょう。また彼は「社会学の父」エミール・デュルケームの論敵としても知られ、その社会模倣説は『自殺論』のなかで厳しく批判されたこともよく知られています。この論争で「敗れた」とされたこともあってか、タルドは社会学のなかではほとんど「忘れられた」人物でした。

ですが、私が大学院で研究をはじめた時期に、ちょうどタルド再評価がはじまりました。フランス現代思想の哲学者ジル・ドゥルーズによる高い評価と、ドゥルーズに影響をうけた研究者たちによって1999年から刊行されたタルド著作集によって、いわゆる「タルド・ルネッサンス」という潮流がおこったのです。

タルドの社会学は、あらゆる社会現象が発明と模倣を通じたコミュニケーションから構成されているとして分析をおこなう点に特徴があります。そして彼は自らの社会学を経済理論にも応用します。経済学において一般的に前提となっている価値、労働、資本、市場、価格決定といった基本的な概念そのものが人間のコミュニケーションに基づかなければ理解しえないものだと指摘し、社会的なコミュニケーションに基礎付けられた新たな経済学として、経済心理学を構想したのです。これは現在の経済心理学とは大きく異なるものですが、未だ斬新さと重要性を失っていない構想であると私は考えています。タルドの社会学理論にもとづく経済心理学の構想を明らかにしたことは、博士論文および拙著『ガブリエル・タルド――贈与とアソシアシオンの体制へ』(洛北出版、2011年)の達成でした。

enlearge image (to back to press x)拙著『ガブリエル・タルド――贈与とアソシアシオンの体制へ』(洛北出版、2011年)書影。

博士論文を書き終えてからは、タルドの議論がどのような影響関係のもとで現れてきたのか、そして死後どのような影響力を有したのかを課題としています。タルドにたいする影響については、パリ政治学院(Sciences Po.)にあるタルドのアーカイブ調査によって、影響関係の一端とその年代を少しずつ明らかにしつつあります。例えば、メーヌ・ド・ビランとハーバート・スペンサーを乗り越えようとする多大な努力を彼のノートに見出すことができます。これらは彼の哲学的思索に大きな影響を与えたと考えています。ですが、もっとも知りたい模倣概念や発明概念についてはいまだ調査中の課題です。

タルドからの影響関係については、その発明概念がいかに社会学史のなかで受け継がれたのかを追究しています。タルドはけっしていきなり「忘れられた」のではありません。調べていくうちに、タルドの発明と模倣の社会学は、二つの世界大戦のあいだの戦間期アメリカで議論されていた「発明の社会学」へと間接的にせよ継承されていたことを知りました。そして「発明の社会学」を唱えた社会学者たちが発明をめぐる議論において政府に提言している文章を分析したところ、それが現在のイノベーションをめぐる議論と大きく異なっていることに興味を感じました。彼らは急速に増えていく新たな発明をいかに社会にうまくなじませるかを考え、そのための未来予測の学を構想し、実践していました。彼らの議論は、その後のイノベーション概念の形成へと繋がっていく流れでもあります。ですが同時にそこに収斂されきってしまわない余剰ももっています。引き続きこの時代の議論を調査することで、当時の社会学者がどのような社会構想のなかで発明を議論していたのかを明らかにしたいと考えています。

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