視覚障がい者の「美術鑑賞」を考える

掲載日: 2015年10月01日English

enlearge image (to back to press x)触って作品を見ている様子。

私の研究テーマは「美術館における視覚障がい者の美術鑑賞体験」です。美術館は「作品を見る」ことが前提とされている空間です。その空間のなかで「見る」ことに困難を持つ視覚障がい者がどのように作品を「見」ているのか、その方法から生み出される彼らの鑑賞体験はどのようなものなのかを考察しています。

先進国において美術館が視覚障がい者へも開かれ、視覚障がい者が美術館へ行き、美術鑑賞を行う機会が増えたのは1970年代のことです。まず欧米にて始まり、その後日本でも始まりました。この増加の背後にはユニバーサル・ミュージアムあるいはインクルーシブ・デザインの動きとともに、視覚障がい者の美術鑑賞が重要であるとする2つの考え方がありました。一つは、福祉の分野における文化的な機会の平等という観点です。特に日本では1980年代より市民団体の活動が活発化し、視覚障がい者と美術館を繋げる試みがなされてきました。二つ目の観点は、視覚障がい児の教育的効果につながるという観点です。これは美術館学の分野における動きと一致します。つまり、近代以降「見る」ことに特化していた美術館は、1980年代後半より教育普及活動において、「聴く」「体験する」などの活動を取り入れることで、幅広い来館者を受け入れられる体制を整えてきました。その幅広い来館者のなかに、視覚障がい者も含まれていました。

このような過程のなかで行われてきた視覚障がい者が作品を「見る」方法は、基本的に3種類あります。1つは、彫刻作品などの立体作品に「触る」方法、2つ目はAudio descriptionというメディアを使った、作品描写を「聞く」方法、そして3つ目が視覚に障がいをもたない人ともつ人がグループになり、一つの作品について自由におしゃべりをしながら作品を見るという「対話」による方法です。これら3つの方法を用いて、時には作品によって組み合わせたりしながら、視覚障がい者は作品を鑑賞しています。

私はこれまで、美術館活動の歴史的経緯・理論分析と、そのなかで生まれた鑑賞方法に注目し調査を続けてきました。調査方法としては、関連文献や資料の分析だけではなく、美術館関係者や実際に美術鑑賞を行った視覚障がい者への聞き取り調査も行っています。また調査地も日本だけでなく、イギリス・アメリカを中心とした欧米でも行っています。現地で収集できる関連文献や資料を読み解くのはもちろんのこと、実際に美術館に足を運び、ワークショップを見学したり、担当スタッフに話を伺ってきました。体験者への聞き取り調査では、各方法が持つ特有性や問題点等を調査してきました。

enlearge image (to back to press x)盲学校での鑑賞体験授業で使用した立体コピーと立体版立版古。原画は葛飾北斎による「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。

昨年度は、これまでの調査で得た知見をもとに、盲学校における美術鑑賞の体験ワークショップを実施しました。鑑賞ツアーを企画しているボランティア団体や盲学校の美術教員の協力のもと、「対話」による方法と立体コピーに「触る」方法を組み合わせ、絵画作品を盲学校の生徒に鑑賞してもらいました。彼らの鑑賞の様子を分析することで、「対話」において交わされた「ことば」からどのように視覚障がい者が絵画作品イメージを作り上げているのか、その一端を明らかにすることができると考えています。

一言で「視覚障がい者」といっても、その障害の度合いや発生時期などで「見え方」は異なります。その為、視覚障がい者の美術鑑賞は、視覚的活動である既存の「鑑賞」とは異なる様相が幾つも存在しています。従来美術における「鑑賞」という体験は、「見る」行為が前提として捉えられ、語られてきました。そのような従来の視点から離れ、視覚障がい者という別の視点から美術鑑賞を見ていくことで、新たな一面を示すこと、そしてそれは、晴眼者の鑑賞や芸術作品そのものにも変質を促す可能性を有していることを示していきたいと考えています。

鹿島萌子

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