日米のコミュニケーション教育をとりまく共通の課題を観取する

掲載日: 2015年09月01日English

enlearge image (to back to press x)年次大会オープニングセッションの様子

近年、学校教育におけるコミュニケーション能力育成の必要性が盛んに指摘されるようになりました。社団法人日本経済団体連合会が2004年から2013年に調査した「新卒採用に関するアンケート調査」では、大学新卒者の採用時に企業が重視した要素の第1 位が10年連続でコミュニケーション能力という結果が出ています。

同様の状況はアメリカでもみられ、2003年頃からコミュニケーション能力・折衝能力・プレゼンテーション能力・常識など可視化の難しい要素が、資格や学位など可視化できる要素よりも重要視されるようになってきました。そして、コミュニケーション研究の先進地域であるアメリカでは、コミュニケーション能力の理論化や、スピーチやディベートをはじめとした教育実践が試みられてきました。

しかし日本では、「コミュニケーション」という用語・概念が多義的かつ曖昧に使われているうえ、コミュニケーション能力は「成長するにつれて自然に身につくもの」とみなされる傾向にあり、同能力育成のための体系的な教授法は十分に議論されてきませんでした。また、欧米中心的なコミュニケーションの教授法をそのまま根づかせる困難さが指摘されつつも、実際の教育現場は、国際化への対応を目指した欧米式のコミュニケーションの推奨と、「空気を読む」といった表現に象徴されるような日本独自の対話の文脈・規範の尊重とが混乱した状況にあります。私は、コミュニケーション能力育成のための日本独自の教育プログラムを考案することを目的に、日本とアメリカの教育現場におけるコミュニケーションの捉え方や教育実践の比較研究をしています。

enlearge image (to back to press x)全米コミュニケーション学会会報

2014年11月20日から23日にかけて、全米コミュニケーション学会100周年記念大会に参加しました。会期中は約6,000人の参加があり、1,200を超えるセッションが組まれました。今回は、研究発表への参加だけではなく、アメリカでの調査においてご指導いただいているシェリー・モリアール博士の計らいで、博士が委員を務める学会役員会議やコミュニケーション能力育成のベーシック・コース分科会の会議などにも出席しました。

あるミーティングは、研究者のみならずアメリカの大学進学適正試験の主催団体であるACT(American College Testing)の職員も交えたものでした。国語試験のように確たる採点基準が定まっていないコミュニケーション能力をどのように計り、伸ばしていくかをめぐる取り組みについて活発な議論が繰り広げられました。また、他のミーティングでは、近年のデジタル社会への転換とともに、コミュニケーション能力に対する見方や認識に変化が現われ、これまでの教育方法では学生に興味や関心を持たせることが難しい状況が指摘されていました。

本大会への参加を通じて、コミュニケーション能力育成には、その能力を評価するための基準を設定する難しさや、デジタル化に伴うコミュニケーションの性質そのものの変化といった日米共通の課題があることを痛感しました。また、昨今、アメリカでは、公的な場で自己主張ができる外向型の人間性の育成と連動した従来のコミュニケーション理論に再考を迫る研究が活発化しています。欧米中心型のコミュニケーション理論を相対化し、アメリカ型から零れ落ちる人々を取り込んだ多元的なコミュニケーション理論の形成のためにも、内向型と評されてきた日本のコミュニケーションの可能性を模索し、独自の教育プログラムを考案していきたいと決意を新たにしました。互いの異質性を前提とした公的な場面でのコミュニケーションをめぐる理論・方法論の構築は、異なりをいかに伝えあうかだけでなく、伝え方の異なりをいかに伝えあうかという課題の克服にも寄与するものだと考えています。

野島晃子

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