華人研究のパラダイムを再考すること

掲載日: 2015年06月01日English

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2011年9月、第8回世界華人福音会議がインドネシアのバリ島で開催されました。世界中約四十か国から合計2500人以上の代表が集まっています。

日本では、中国に出自を持ちながら中国以外の地域で定住している人々のことを、「華僑」と呼ぶのが普通です。しかし、「僑」とは「仮住まいをする」という意味なので、「華僑」とは中国籍の所有者や中国に対して強い帰属意識を持つ人々を指す言葉です。一方、居住地に帰化して帰属意識をもつ人々やその子孫たちを指す言葉は「華人」であり、それは「華僑」を含む上位の概念としてもよく使われます。私は、華人のなかでもとくにキリスト信仰(主にプロテスタンティズム)をもつ「華人キリスト者」を研究対象にしています。しかし、研究を進めていくうちに、「華人」という存在を規定する従来のパラダイム(研究の枠組み)に疑問を感じるようになりました。

以前、インドネシアの華人を研究する、ある60代の中国人研究者A氏から次のような話を聞きました。

ある日、A氏は調査先で、ある華人社会の有力者の父親の葬儀に参列することになり、遺影の前に献花した後、辞儀をしようとしたら、隣にいる遺族たちに怒られて阻止されたそうです。幸い、参列者の中に香港出身の牧師がいて、彼がA氏に対して、この一族はキリスト者であるため、遺影に辞儀をする行為も祖先崇拝・偶像崇拝とみなされるのだと説明し、その場は事なきを得ました。

A氏はこの一件に納得できなかったようで、この出来事を私に話してくれた時、「私は敬意を表したかっただけなのに」、「華人としては親不孝ではないか」と言って、自分の行為は中国人としてはあたりまえの行為だと主張していました。

「華人」の出現は紀元6世紀まで遡ることができます。ほとんどの場合、長い年月が経つと、「華人」は現地の社会で定住し、言語から生活慣習に至るまで、中国社会のそれとは異なるものを培っています。しかし、多くの研究者は、各地に離散した「華人」を論じる際、彼らの間の異質性よりも同質性を指摘することを好み、その同質性から彼らを中国や抽象的な「中華世界」の延長に位置づけようとする傾向にあります。とくに中国の研究者はそのほとんどが、このような位置づけを華人研究の前提としているようです。そのため、この約半世紀の間で、華人の規模の拡大に伴って事例報告が大量に蓄積された反面、中国中心主義的なパラダイムは、その有効性が疑われながらも再考が進んできませんでした。

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異なる地域の華人キリスト者の間に、様々なミッション系出版物を介した交流が盛んに行われています。民族や国家などではなく、「キリスト者と未信者」という二項対立的な世界観が形成されつつあります。

A氏もまた、中国社会の儒教的な文化的背景に基づき、遺族たちの行動に「親不孝」のような違和感をもちました。一方、遺族たちがA氏の行動に怒ったような衝突の場面や、中国の文化を中心とした理解に反感をもつ華人の数は、世代を重ねれば重ねるほど多くなっています。しかし、「中国に出自をもつこと」が華人を定義するための最優先事項であり続ける限り、言い換えれば中国の文化との同質性がもっとも評価される価値観のもとでは、中国中心主義者たちはそうした衝突の意味や怒りの声を、いとも簡単に無視・批判し続けるでしょう。

では、中国に出自をもつことを単なる歴史的事実として限定して、別の何かの要因を用いて華人を再定義することは可能でしょうか? 私は、ここ数年間の調査から、まさにA氏が遭遇した「華人キリスト者」の存在にこそ、その可能性が秘められていると考えています。とくにプロテスタンティズムの場合、華人世界での受容の歴史が中国よりも長く、20世紀半ばから活発に独自のネットワークが形成されていきました。遺影への辞儀さえ忌避するような非常に敬虔な行動だけでなく、プロテスタンティズムの教えをもとに形成された――中国の社会にも教会にもない――新たな慣習が、マラヤ、台湾、香港といったほかの地域の華人キリスト者の間では多様な形態でみられます。もちろん、宗教が完全に出自にとって代わるということではありませんが、華人たちが中国中心的な価値観に対抗する根拠として、また華人研究のパラダイムの転換を試みるうえで、彼らを再定義するための基盤を信仰のネットワークに求めることには、意義があるのではないかと考えています。

アルベルトゥス=トーマス・モリ(Albertus-Thomas Mori)

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