労働相談の実践と研究の狭間で考える

掲載日: 2014年06月01日English

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私は、個人加盟ユニオン、特に若年非正規労働者の問題に取り組んでいるユニオンを「若者の労働運動」と呼び、その研究をしています。ふつう労働組合と言われて想像するのは、企業の中にある組合ではないでしょうか。そしてその多くは正社員しか入れません。それに対して個人加盟ユニオンは、企業の外、街中に事務所を構え、アルバイトや派遣労働者などどんな働き方をしている人でも相談ができ、加入できる労働組合です。もちろん正社員も入れます。

ユニオン運動は1980年代中頃から始まり、非正規労働者の増加とともに活発化してきました。今では多くの人々が知っている労働問題、例えば過労死や「名ばかり管理職」、セクハラ・パワハラなどを社会に知らしめたのは、ユニオン運動とそれに協力した弁護士やメディア関係者でした。もちろん勇気をもって告発した当事者や過労死遺族の存在も忘れてはいけませんが、彼らをユニオンに結びつけたものが労働相談でした。

労働相談は、主に電話やメールで受け付け、労働基準法や労働組合法などにもとづく法的なアドバイスを行います。多くの人は法的な知識を持たず、「納得がいかない」「自分が間違っているのか確認したい」といった理由で相談をしてきます。なかには、ひどい目に遭っているにもかかわらず、「頑張らなかったからいけなかったのではないか」と自分を責めている人もいます。それに対して相談担当者からの法的なアドバイスは、自分の問題が個人的なものではなく、集団的・社会的に解決していくべき労働問題であると相談者が思えるようになる役割を果たしています。また相談担当者が「悪いのは会社だ」と言って怒ってくれたことによって、「自分は悪くないんだ。怒ってもいいんだ」と思えるようになったという方もいます。つまり労働相談は、労働問題の当事者だという自覚を持った人が問題解決の手段としてユニオンに接触する場ではありません。むしろ労働相談が、労働問題の当事者を作り出しているとさえ言えるでしょう。

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組合の交流会では食事を作って参加者で食べます

私は、実際に担当者になって相談を聞き、団体交渉で企業と交渉をしたり、労働基準監督署に付き添うなどしているうちに、そのような労働相談の機能に気づきました。そのため、この労働相談が私の研究の現場です。しかし正直に言って、相談に乗っているときは研究者であることを忘れている場合が多いです。余裕がないということもありますし、労働相談自体に意味を見出しているということもあります。やはり少しずつ元気になっていく相談者を見ていることは嬉しいことです。ただそのような感じで相談活動にかかわっていると、自分が研究者としてすべきことは何なのか、自分の研究にどのような意義があるのかで迷うことがよくあります。そのときに思い出すことは、「解決」ということが相談者にとって難しい場合が多いということです。

労働環境の厳しさが増すなか、労働問題が原因で精神疾患を発症してしまう労働者が増えています。また、どこの職場も労働条件が悪く、再就職が難しいだけでなく、再就職をしても長く続けられない場合も多くあります。それゆえ、会社との交渉が終わっても「すっきりと解決した」と言える場合は経験上ほとんどないのが実情です。労働相談は、相談者の尊厳や生存を支えるものですが、継続的に支えるにはユニオンはまだまだ力不足と言わざるをえません。だからこそ研究者としては、個別の相談に答えながらも、そこから引き出せる社会的な意味を明らかにし、構造的に生存を支えられるような状況を作り出すことに寄与するべきだと考えています。なぜならそれが個別の相談者の「解決」にも寄与すると感じるからです。

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