再生医療/研究にコミットする当事者団体から見えてくるもの

掲載日: 2013年12月01日English

「特定非営利活動法人日本せきずい基金」(以下、せきずい基金)と再生医療研究にまつわるフィールドが私の研究の現場です。この研究に取り組むことを決めた経緯は、以前せきずい基金の会報にエッセーを書かせていただきましたので、もしよろしければご覧ください。

enlearge image (to back to press x)*
街頭募金活動をする
せきずい基金大濱理事長

日本には脊髄損傷者が約10万人以上おり、毎年約5千人の受傷者があらたに発生するといわれています。これまで人間の中枢神経系は一度損傷を受けると再生しないという医学的な「通説」があり、脊髄損傷は「治らない怪我」でした。しかし、再生医療研究(とりわけ幹細胞研究)の進展により脊髄損傷治療の可能性が出てきたことで、再生医療研究を推進するための当事者団体が設立されました。それがせきずい基金です。

再生医療研究に当事者団体が関与することは、研究にどのように作用し、それはどのような意味をもつのでしょうか。

海外では、病・障害の当事者団体による生命科学研究の推進活動が活発に行われています。その活動が研究自体を動かすことも珍しくありません。遺伝性疾患のハンチントン病患者家族が設立した米国の遺伝病財団(1974年〜)は、研究者を集めて組織化し、広報、資金集めといった活動を続けました。その活動は、1983年、ハンチントン病遺伝子が染色体上のどこにあるのかというマーカー遺伝子を発見することに大きく貢献しました。また、遺伝病財団をモデルにしたPXEインターナショナル(1995年〜)がほかの希少難病の当事者団体とともに創設したジェネティック・アライアンス・バイオバンク(2003年〜)という連合体があります。ジェネティック・アライアンス・バイオバンクは、当事者団体が患者の生体試料の収集・保存・分配を行い、研究者と連携した研究推進と特許申請にも積極的に関与しています。こうした活動を通じて、当事者団体主体の新しい科学研究モデルが構築されています。このような患者と科学研究者の「同盟関係」は日本でも注目され始めています。

せきずい基金は1996年に、イギリス国際脊髄研究基金(1980年〜)をモデルに活動を開始した団体です。以来、海外の当事者団体や国内の再生医療研究者と関係を構築し、会報の発行や調査など精力的に活動を展開してきました。たとえば2004年には、関西医科大学と京都大学による急性期脊髄損傷者を対象にした骨髄間質細胞移植の臨床試験計画に参画しています。臨床試験計画の報道発表を受け、せきずい基金は臨床試験を実施する研究者に質問表を送り、話し合いを重ねたのです。私はこの過程に着目し、科学への市民参加の見地から臨床試験の課題について考察しています。専門家と当事者の科学コミュニケーションの難しさとともに、プロトコルの完成水準やIRB(施設内倫理委員会)の公開性などについての科学政策的課題が浮かび上がってきました。

enlearge image (to back to press x)*
脊髄再生研究セミナーにて

先日(2013年10月26日)、せきずい基金は「脊髄再生研究セミナー」を主催しました。セミナーでは、名古屋大学大学院の上田実教授による「幹細胞を用いない再生医療」についての講演がありました。せきずい基金常任理事は、このセミナーの開催趣旨を「iPS細胞研究だけが再生医療研究ではないことを示すため」だと語っています。現在の再生医療研究はiPS細胞研究に期待も資金も集中している状態となっています。そのようななかで開催された今回のセミナーは、つねに新しい情報を多角的に収集・提供し、再生医療研究を見極めるせきずい基金の特徴を示しているでしょう。

私は、せきずい基金と再生医療研究の歴史の交差に注目し、日本の再生医療研究の現代史を研究しています。そこにおける当事者の位置を捉え直すことで、社会と科学(技術)、専門家と市民の、重層的な関係を見ることができます。こうした科学研究と市民の相互作用という観点からせきずい基金の動向を追うことで、社会に埋め込まれていく/埋め込まれた日本の再生医療研究の実態が見えてくるのではないかと考えています。

坂井めぐみ

arsvi.com 「生存学」創生拠点

書庫利用案内

「生存学」創生拠点パンフレットダウンロードページへ

生存学研究センターメールマガジン

立命館大学大学院先端総合学術研究科

立命館大学人間科学研究所

立命館大学

フェイスブック:立命館大学生存学研究センター

生存学研究センターのTwitterを読む