よりよく生きるためにゲームを使う――中国におけるインタラクティブメディアアートとデジタルゲーム

掲載日: 2018年06月01日English

現在まで行ったインタラクティブメディアアート(interactive media art)プロジェクトの写真が展示されている

私は、シリアスゲーム (serious game)について研究しています。シリアスゲームを「まじめな」あるいは「真剣な」ゲームと訳すと、意味が分かりづらいかもしれません。シリアスゲームとは、心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder, PTSD)などのこころの傷を治したり、認知症の予防や改善をしたり、さらには現実の社会の問題の解決、訓練、教育、キャンペーンなどを行ったりと、エンタテイメントにとどまらない明確な目的を持ってデザインされたゲームの総称です。これまでもゲームによるそれらの効果を示す研究はたくさんなされてきましたが、その一方で、今までのシリアスゲーム研究では、ゲームはあくまで遊びであり、楽しくプレイする以外の目的を持つことはゲームの本質に反するという指摘もありました。そのため、シリアスゲームは矛盾している概念であり、明確に定義することはできないとされてきました。ゲーミフィケーション(gamification)やgame-based learning、G (Game)-learning、 教育用ゲーム (Edu-game)といった、似たようで異なる概念が多く存在しているのも理由のひとつです。私は、シリアスゲームがどのように教育分野へ応用されているのか、効果的に応用するためにはどうすればよいか、もしくは、その効果をより正確に測定するための方法や評価モデルとはなにかといったことに関心があります。主に韓国を中心とし、比較のため海外事例調査もしています。

今回は、調査の一環として、中国の大連にある大連藝術設計大学を訪問しました。大連藝術設計大学では、インタラクティブメディアアート(interactive media art)という概念が将来の新たな教育ツールとして使用されていました。大学のカリキュラムを通して、デザインだけでなく、地域と連携して多様な活動をすることにより社会に貢献することを目指したコンテンツと関連づけられた人材育成が行われていました。そこで交流した研究者たちによると、「インタラクティブメディアは、デジタル技術とコンテンツの結合を意味しますが、その中で相互がより強調された芸術作品をインタラクティブメディアアートあるいは新しいメディアアートと呼ぶ」とのことでした。

インタラクティブメディアアート(interactive media art)プロジェクト研究室の様子

韓国では、ゲームによる効果についての疑念やゲームの悪いイメージを払拭するために、シリアスゲームが使われています。他方で、中国では、シリアスゲームなどを含め、デジタル技術を応用する幅広い概念として、インタラクティブメディアアート概念が使われているケースがありました。ゲーム、特にデジタルゲームの否定的なイメージが強い中国でも、デジタル技術を用いたインタラクティブメディアアートについては とても肯定的に認識されていることが今回の調査を通じてわかりました。

以前と比べて、シリアスゲームによる効果を明らかにする研究は多くなりました。しかし、客観的な評価ができる研究が少ないことが未だに問題点として残っています。その他にも、ゲーム、特にデジタルゲームを教育の現場に応用することに対する懐疑的な見方や憂慮も多くあります。とはいえ、中国のインタラクティブメディアアートの事例のように、ゲームをどのように「使う」のかもまた重要です。ゲームは、それをプレイするプレイヤーに何かしらの経験を与え、ゲームの内・外でいろいろな相互作用を引き起こします。これこそがゲームを教育分野に応用する際の一番の強みであるというのが、私の以前からの考えです。

これからも、シリアスゲームの教育分野における応用を推進するために、そのあり方や実現を通して、ゲームの社会的価値が高まることを期待しながら研究を続けていきたいと思います。

シン・ジュヒョン(立命館大学先端総合学術研究科院生)

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この成果は、生存学研究センター2017年度若手研究者研究力強化型「国際的研究活動」研究費の助成を受けたものです。

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