Boston USAでの国際交流――International Symposium on ALS/MNDに参加して

掲載日: 2018年05月01日English

ポスター報告では、医療者、医療機器メーカー、製薬会社、イタリアでALSの権利擁護の活動をしている人たちと、重度訪問介護の制度、介助者の育て方、さまざまな話をしました。

2017年12月7日~9日に、ボストンで開催されたALS国際学会(28th international symposium on ALS/MND)に参加しました。シンポジウムは治療に関する研究報告が多かったのですが、私たちはALS(筋萎縮性側索硬化症)当事者の増田英明さんと、人工呼吸器装を着けたALS当事者の在宅生活について事例報告をしました。家族以外の介助者、とくにパーソナルアシスタントという自分専属の介助者を育てることで生活を組み立てることや、医療と福祉の制度を活用した在宅体制について示し、会場では20名ぐらいの方々と意見交換をしました。

滞在中はALS国際患者同盟のネットワークのつながりから、ALS当事者が入所する現地の施設訪問や、学会に参加していた他国のALS当事者にインタビューをさせていただく機会がありました。施設の入居者の多くはメディケイドという低所得者の身体障害者を対象とした給付金を受けており、メディケイドを受給しない層の人たちは1日530ドルの利用料を支払っていました。入居者数は100名ほどで、ALS当事者18名のうち3名は人工呼吸器を着けていました。医療が必要な人たちのために看護師が24時間体制で配置されています。施設の中の様子は、電動車いすのALS当事者が視線入力装置を介して扉の開閉やエレベーターを操作し、文字入力を音声に変換して案内して下さいました。私たちが見学したフロアは全個室で、ベッドから浴室・トイレまでは天井走行リフトが設置されていました。見学中は介護スタッフにほとんど出会えず、高度な福祉用具を活用した生活の様子がうかがえました。

ALS当事者のSteve Salingさんが、視線入力装置でエレベーターの操作や扉の開け閉めをして、施設内を案内して下さいました。

インタビューでは、アメリカ・オランダ・台湾・アイスランド・インド・ベルギーの方々に生活状況を尋ねました。国にもよりますが、ALS当事者の生活に利用できる制度/公的サービスがないわけではありませんでした。例えば、ボストン自立生活センター(Boston Center for Independent Living: BCIL) では、訪問看護サービスも提供しており、自立生活センターが提供している福祉制度とつながることで、在宅で24時間の介助派遣を受けられる仕組みもありました。しかし、ALS当事者は医療との結びつきが強く障害者福祉とつながりにくい現状がありました。また、多くの国の公的サービスは家族介護が前提であるため、制度として十分ではありませんでした。

ALS当事者の地域生活を考えるとき、家族以外の支援者による介助は欠かせません。インタビューで他国の方々から聞いた、医療と福祉の関係や制度的課題は、日本でも似たような状況があります。しかし、いま日本では障害者運動の結果、重度訪問介護というサービスで365日・24時間の介護保障が実現しており、ALS当事者もこの制度につながって生活を組み立てています。また、日本では家族以外の介助者が、たん吸引や胃ろうからの栄養注入などの医療的ケアを行う場合は、資格をとって行うことが合法化されています。このような制度を使いながら、人工呼吸器をつけたALS当事者が地域で自立生活を送れるようになっています。

ベルギーのALS当事者のDanny Reviersさんは、増田さんが国際学会の参加にあたって直面した飛行機のバリア問題に対して、「特定の航空会社と交渉するだけではなく、国際問題としてとりくんでいくべき」と語っておられました。

他国のALS当事者の人工呼吸器の装着率は極めて低く、ALS国際学会に人工呼吸器を着けた当事者が参加しているのは日本だけです。そのため、増田さんの存在自体が国際学会の参加者に大きなインパクトを与えていました。一緒にいると他国の当事者や研究者から人工呼吸器を着けた生活実感を尋ねられたり、吸引チューブを改良したスイッチでのパソコン操作に興味を持たれたりしました。また、同行したヘルパーの介助を見て、ヘルパーを増田さんの家族と勘違いしていた方には、パーソナルアシスタントについて説明しました。

日本のALS当事者たちは、自らと仲間たちが生き延びるために、医療と福祉の制度につながりをつくる運動を続けてきました。ALS国際学会でも地道な国際交流を積み重ねており、昨年は他国の当事者と一緒に学会のバリアフリー化を求めて声明を出し、今年から国際学会の中にALS当事者による諮問機関が設けられることになりました。こうした流れを引き継ぎ、日本から参加した増田さんは自らが直面した飛行機のバリア問題(注1)について他国の当事者らと議論し、帰国後もバリアフリーに向けて精力的に活動しています。

ALSという病気を治すことはもちろん重要ですが、病気を抱えながらどのような生活をしているのか、あるいはどのような生活が可能なのか、といった生活していく手段や生活の質に関係するテーマの情報交換も、今ここで生きている当事者にとっては重要なことだと思います。国際間のコミュニケーション技術や社会保障にも格差があり、他国では生きていくための選択肢も限られています。国際学会に参加して、他国のALS当事者の生活を見聞きしたり、当事者のリアリティを発信したりといった国際交流を行うことは、国境を越えて患者と支援者の未来につながっていく重要な活動であることを実感しました。

西田美紀(立命館大学大学院 先端総合学術研究科 院生)

(注1)増田さんが直面した飛行機のバリア問題については以下を参照。
http://www.ritsumei-arsvi.org/essay/essay-782/

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この成果は、生存学研究センター2017年度若手研究者研究力強化型「国際的研究活動」研究費の助成を受けたものです。

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